統一特許裁判所協定(UPCA)が来年4月に発効予定
ドイツによる批准書の寄託が2022年12月中旬以降、 サンライズ期間の開始が2023年1月1日、そしてUPC協定の発効が2023年4月1日と なる予定です。これにより、いよいよ、欧州連合(EU)内のUPC協定加盟国において、 発明を安価に、かつ効率的に保護することを目的とした、単一効特許(Unitary Patent; UP)制度、および統一特許裁判所(Unitary Patent Court; UPC)制度が スタートします。
1. 欧州単一効特許(UP)とは EU加盟国は、現在、27ヶ国(令和4年10月時点)ですが、これらの加盟国のうち、スペイン、クロアチア、ポーランドを除いた加盟国は、 単一効を請求し、設定登録がされることによって、従来の欧州特許の場合に必要とされていた各国での有効化(validation)と公用語への翻訳が不要となり、全ての加盟国において有効な特許を取得することができます。なお、現時点でUPC協定発効後にUPが有効となるのは、オーストリア、ベルギー、 ブルガリア、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、イタリア、 ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、 スロベニア、スウェーデン、ドイツの17ヶ国です。出願から特許査定までは従来どおり、欧州特許庁(EPO)が 行いますが、UPを取得するためには、特許査定から一ヶ月以内にEPOに対して、その申請(request for unitary effect)を行う必要があります。申請手数料は不要です。ドイツが批准書を寄託した後は、UPC協定が発効する前であっても、UPの早期申請 (early request for unitary effect)や、EPC規則 71 (3) による通知に対して、欧州特許付与の決定を延期する申請(request for a delay in issuing the grant decision)を行うことが可能になります。UP制度においては公用語への翻訳は不要となりますが、UPC協定の発効後、6〜12年と見積もられている「移行期間」内は、欧州特許の全文翻訳が必要です。UPを申請する際の翻訳文は、EPOでの手続言語がドイツ語又はフランス語の場合は英語であり、EPOでの手続言語が英語の場合には、任意のEU公用語です。 この翻訳文は、権利範囲の解釈に影響を与えるものではありません。EPC協定加盟国は目下、38ヶ国ですが、UPC協定に加盟していないEU 加盟国、非EU加盟国、およびスペイン、クロアチア、ポーランドについては、UPと並行して、従来の欧州特許制度を利用することができます。
2. 統一特許裁判所(UPC)とは UP及び従来の欧州特許について、主に特許取消訴訟を管轄する中央部(支部:パリ、ミュンヘン)と、主に侵害訴訟を管轄する地方部・地域部 とから構成される第一審裁判所、及び控訴裁判所(ルクセンブルク)から 構成されます。ただし、従来の欧州特許については、移行期間(7〜14年)中であれば、各国で訴訟を提起することもできます。なお、英国がEUを離脱したため、新たな支部設置都市として、ミラノとアムステルダムが候補地に挙がっているようです。
3. サンライズ期間(sunrise period)とオプトアウト(opt out)について UPC協定が発効される日の3ヶ月前から、UPC協定発効までの期間が、「サンライズ期間」となります。従来の欧州特許について、UPCの専属管轄となること(例えばUPCにより 全加盟国において特許が無効とされること等)を回避するために行う手続が 「オプトアウト」であり、その申請は来年1月1日に開始予定となっている サンライズ期間の開始と共に可能になります。オプトアウトの申請手数料は不要です。ただし、オプトアウトが可能であるのは、移行期間中であって、かつUPCに訴訟が提起されていない場合のみです。また、対象となるのは、 UPC協定発効後に欧州特許が付与された場合だけでなく、すでに欧州特許が 付与され、UPC協定加盟国で有効化されている特許も含まれます。なお、UPを取得した場合はオプトアウトはできません。移行期間が終了した後は、従来の欧州特許であってもUPCの管轄となります。